クリエイティブに経験を後押しする、自然を愛するローカルカンパニー
2023.12.2
アウトドアや自然を愛し、各界で活躍するさまざまなプレイヤーに、日々の活動の熱源についてインタビューする読みもの企画「火種」。
第5回目となる今回訪ねたのは、妙高戸隠連山国立公園の中にある「戸隠キャンプ場」です。
訪れる人々を魅了する迫力ある戸隠連峰、200張り以上可能なフリーサイトという自然の魅力が詰まった戸隠キャンプ場は、牛や馬が放牧された戸隠牧場、冬は極上の雪景色を楽しめる戸隠スキー場とともに、地元企業「株式会社戸隠」が管理運営するキャンプ場。
戸隠を想う地元の人によって運営されているその背景や、国立公園という大自然ゆえの工夫や楽しみ、想いについて、企画・営業部の野本宏美さんにお話を伺いました。
写真=河西龍太郎
聞き手・文=原口さとみ
時代を超えて進化しつづける戸隠の大地
――今日は雨天とはいえ、だいぶ気温が低いですね! まずは戸隠キャンプ場の概要を教えていただけますか?
ここは標高1,200mあるので気温が低く、今日は寒いくらいですが(笑)、夏の過ごしやすさは特徴のひとつです。そしてやっぱり一番の魅力は、この広さと山の景色の美しさ。
場内の戸隠牧場や、近隣の戸隠神社や忍者村などの観光施設もあったりとキャンプ以外の楽しみもあるので、どんな方にも楽しんでいただけるキャンプ場です。
[戸隠牧場の様子]
――戸隠とはどんな場所なのでしょう?
本当に昔の話をすると、かつてここ一帯は海で……
――え!? ここ標高1,200mって……
地層のずれで山が切り立っていって、今のこの連峰があるそうです。数百万年と前の話ですけどね(笑)。ここから20分くらいのところに戸隠地質化石博物館もあります。
――ただでさえここは雄大な山の存在感がすごいのに、そう聞くとなおさら地球の力を感じますね。キャンプ場自体にはどんな歴史があるんですか?
ここはもともと明治時代に開牧した牧場でした。戦争で途中休業しながら、キャンプ場になるまではずっと牧場。現在の区画サイトあたりを野営地としてスタートしたのが、戸隠キャンプ場の始まりと聞いています。
最初野営地だった場所が今は区画サイトになり、バンガローやキャビン、コテージなど建物ができ、23年7月にはトレーラーハウスが新設となりました。
[夏にオープンしたトレーラーハウスの様子。戸隠キャンプ場インスタグラムより]
――今もじっくり開拓が進んでいるんですね
フリーサイトも一部区画を切って電源を引いて少しアップデートしてみたり、グランピングまでは行かないけれどテント泊の良さを感じられる「プレミアムテントサイト」にしてみたり。
あるものを活用しつつ新しいものも融合させて、より良いキャンプ場になるように取り組んでいます。
ローカルメンバーで取り組む、地元の魅力磨き
――株式会社戸隠は、戸隠キャンプ場の指定管理を担うために立ち上がった会社と聞きました
国立公園などの公的な場所は、「指定管理」といって民間企業などが委託を受けて管理・運営をしている場合が多いです。
数年前、長野市で戸隠キャンプ場の新たな指定管理事業者の公募があった時に、地域の人で出資しあって会社を設立し、現在はキャンプ場、スキー場、牧場を運営しています。
[株式会社戸隠公式サイトより]
――地域の人とは、どんな方なんでしょう?
弊社の社長は、戸隠のお蕎麦屋の社長でもあり、長らく戸隠の発展に関わってきた人。生まれも育ちも戸隠というようなローカルメンバーが集まっています。
過去の管理事業社さんは100%地元企業というわけではなかったのですが、今度は地元の人間だからこその視点で、地域の魅力を磨き、次世代につなげようという思いに共鳴した人が集まりました。
[株式会社戸隠公式サイトより]
――戸隠には初めて来たのですが、空気が凛として視界に入る稜線が美しくて、本当に気持ちのいい場所ですね
ここは元々キャンプ場としてのポテンシャルが高い場所でした。私たちが運営に入る前に既にバンガローやキャビンといった建物があって、広大な敷地や美しい山々の景色もある。
だから、「テントに泊まる」という機能だけではない、ポテンシャルを生かした独自性を出していくことで「戸隠キャンプ場に行ってみたい」「また行きたい」という人を増やしていきたいなと。
――通路を牛がうろうろしている牧場も楽しめるキャンプ場なんて、なかなかないですもんね。放牧、と聞いてはいましたが、想像以上に自由でみんな人懐こくて、びっくりしました(笑)
自由なスタイルは元々の方針みたいなんですが、こうした人との境目もないような牧場って日本でも少ないらしいですよ。
あの子たちは、実は標高の低い土地の農家さんの牛で、暑さやアブのストレスがかかる夏場に避暑として引越してくるんです。そして、過ごしやすい季節になったらキャンプ場も冬季休業に入るので家に帰る……という代々のやり方を受け継いでいます。
[すぐそばに寄ってくる仔牛。伝染病予防の観点で触れることはNGのためご注意を。]
妥協のないクリエイティブづくり
――野本さんは今どんなことを担当しているんですか?
イベントの企画・実施や、グッズやパンフレットの制作をしています。パンフレットは毎年制作していて、デザイナーさんに今年のテーマはこういう感じで……と伝えて、サイトの広大さをもっと表現したいとか、山の景観をもっととか、いろいろと要求を伝えさせてもらっています(笑)
――テントの種類のリアリティとか犬種の描き分けとか、イラストの描き込みが本っ当にすごいですね! 紙の質感もユニークでなんという完成度の高さ……
うちはスキー場も運営しているので、スキー場のパンフレットとキャンプ場のパンフレットと、現実とイメージが乖離しないように、それぞれこだわって制作しています。例えば、1年目、2年目、3年目、4年目、という感じでこういう風に……
――わ〜〜めっちゃかわいい! これはかなりそそられます
でしょう?(笑)駅中のラックやイベントで大量に並ぶパンフレットのなかで埋もれないように、見る人の目に留まってほしいな、と思ってつくっています。
――こんなディレクションができるとは、野本さんて元々デザイナーなんですか?
いえいえ! スノーボードが好きすぎて、元々は夏は農業、冬はスノーボードのインストラクターという渡り鳥のような生活をずっとしていました(笑)。農家の仕事をしていた時に、店舗の運営でPOPやジャムのラベルをつくったりしていましたけど。
パンフレットは、こちらの要求を形にしてくれるデザイナーさんがとにかくすごいんです。ちなみにデザイナーさんも戸隠の方ですよ。
――チームの良さが伝わってきます! そんな制作仕事のなかで印象深かったことはありますか?
以前、道の駅でオリジナルグッズのエコバッグを使っている方を見かけたり、長野市内で同じくオリジナルのパーカーを着ている方とすれ違ったりしたことがあって。企画もデザインも自分で担当しているので、本当にうれしかったですね。
[キャンプ場入り口のウェルカムハウスにあるグッズショップ]
キャンプがつなぐ新しい自然体験を
――イベント企画もされているとのことですが、キャンパーさんのレベルに合わせてプログラムを組んだりするんですか?
着火剤の代わりになるチャークロス作りやフェザースティック作りなど、ナイフを使う内容でも手袋をして安全性を担保したりこちらで環境を整えれば、小学生でも全然安心してできますし、レベル不問で開催しています。
実際、子どもだけでなく大人のキャンパーやソロキャンパーさんが参加してくれることも多くてうれしいですね。
[野本さんお手製の公式グッズガチャガチャと、イベント告知ボード]
――ソロキャンパーの方もよくいらっしゃるんですか?
ここ数年は女性の方も増えていて、わりといらっしゃいます。私自身、平日休みの日にここでソロキャンプしていますが、平日は誰かしらいる安心感がありますね。本当に一人だけのソロキャンプって暗すぎて心細くなったりしますが、ここは大丈夫。
女性のソロキャンパーさん、安心して来てください!
――野本さんご自身もキャンパーなんですね
最近よくソロキャンプするようになりました。勤務中、利用者の方に「山がすごくきれいに見えた」と言っていただいたり、「フクロウに会っちゃいました!」と目をキラキラさせて報告してくださった方がいると、私もうれしくなって一緒に「わー!」って盛り上がったりしています(笑)。
自分が好きなキャンプ場で素敵な体験をしてもらえたことに、キャンパーとしても、サービス提供側としてもうれしい気持ちになります。
自然・人間・野生動物の生かし合う関係
――動物といえば、売店にかわいい熊鈴がありましたね
場内は人の気配や火の匂いがするのでわざわざ入ってきませんが、遊歩道あたりからはクマたちの生息エリアです。
私クマが好きで、「クマは悪者」という認識が広まってほしくないんです。人間が何も持たずに森でクマに遭遇して怪我をした、となったら、人間もつらいしクマもへたしたら駆除されてしまう。音を出してこっちの存在を示すとか、人間もクマに対してのマナーを守って、お互いに豊かな自然をシェアし合える関係性であることが大事だと思っていて、そんな想いで私は熊鈴をつくっています。
――「つくって」? これ手づくりなんですか?
そうなんです! パラシュートコードを編んで、特注で戸隠山のレーザー刻印をしたカラビナをつけて……と、業務の合間に1つずつ私がつくっています。熊鈴づくりのワークショップも開催していますよ。
――野本さんのクマへの想いにグッときます……
熊鈴ワークショップといえば、ファミリーで参加した方がお子さんの個性を目にした時に、「あなたこんな器用だったの!」「しっかり結べられてすごい!」「こんな上手にできるとは思わなかった」といった親御さんの歓声をよく耳にします。この経験を通してご家族同士で新しい一面を見れたり発見があるんだろうな、とあたたかい気持ちになります。
――大体のものが手に入るいま、自分の手を使ってつくる、というのは人生で大事な思い出になりそうです
「知っているけどやったことがない」ということを、キャンプ場で経験してみる。その1回がすごく価値のあることだと思うんです。「知っている」と「知っていてやったことがある」って似て非なるもの。その「やったことがある」の後押しができたらうれしいですね。
――今後、戸隠キャンプ場をどんなキャンプ場にしていきたいですか?
気持ちよく使っていただけるキャンプ場でありたいです。施設、トイレ、価格など全体的に。
「トイレがきれい」といううれしいレビューをよくいただくのですが、そうした行き届いた管理がお客様の安心感につながって、その安心感がお友達に伝わり、一緒に行って「戸隠キャンプ場なら間違いないね」なんて思ってもらえたらうれしいですね。
グッズ制作も、グッズにときめいて気持ちよくお金を使っていただけたらと思います。チャークロスなどのキャンプクラフトのイベントも、「知らなかったことを知って、自分でそれをつくってみて、実際に使える」ことを皮切りに、キャンプにのめりこむ人が増えたらいいな、とも。
熊鈴を通してクマの生態も理解して、自然環境における人間の振る舞いを考えるきっかけになったらとか……こうして言ってみて気づきましたが、これからのキャンプ場への思いや願い、私いっぱいあるみたいです(笑)
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おわりに
フレンドリーでクリエイティビティにあふれ、自然への愛と敬意がお話や行動からとっても伝わってくる、これぞアウトドアパーソン! というお人柄の野本さん。
いま、「人間と動物の共存」「ネイチャーポジティブ」といった、私たちが向き合うべき大事なテーマへの取り組みや議論は、世界のあちこちで行われています。
しかし、大きく構えることなく自然体に、「山が好き」「クマが好き」といった想いをドライブさせて行動する野本さんの視点を通して、自然と向き合うことの楽しさはもちろん、ただ自然を消費するのではなく生かし合える可能性を感じる取材となりました。
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▶︎iihi Magazine #5
戸隠キャンプ場
長野県長野市にある、200張以上可能な広大なフリーサイトと雄大な景色が魅力のキャンプ場。ファミリーに人気のコテージやキャビン、登山利用でも使いやすいバンガローなど幅広いニーズに対応し、併設されている戸隠牧場や、忍者村や神社、名物戸隠蕎麦などキャンプ場周辺への観光もおすすめ。
インタビューを受けてくださった野本さんの最近のお気に入りのギアは、それまでのテントに直接寝袋を敷くスタイルを変えたコット「sl-ztc520(South Light)」、お気に入りのキャンプ場は、芝生の密度が高くて美しく、北アルプスの景観や夜景が最高という「まつもと里山キャンプ場」。
https://iihi.life/camp/D200104/
https://www.instagram.com/togakushicamp_official/
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© iihi