童心くすぐる、歴史と自然と体験を。地域への思いが生んだ複合体験型キャンプ場

2023.7.21

童心くすぐる、歴史と自然と体験を。地域への思いが生んだ複合体験型キャンプ場

アウトドアや自然を愛し、各界で活躍するさまざまなプレイヤーに、日々の活動の熱源についてインタビューする読みもの企画「火種」。

第4回目となる今回訪ねたのは、陶芸のまち、益子エリアにほど近い栃木県茂木町の昭和ふるさと村です。

昭和9年(1934)に建てられた木造建築の廃校施設を活用した宿泊施設、グランピング、オートキャンプ場、そして最近はサウナやバーベキューテラスもオープンした、さまざまな体験ができるキャンプ場。

もともとキャンプ場を経営していた家族による、地域への想いの詰まった第2の挑戦ともいえる昭和ふるさと村の誕生背景から、現在の運営の舞台裏、そして今後について、運営の穴澤妙哉さんに伺いました。

聞き手・写真=河西龍太郎
構成・文=原口さとみ

かつて子どもだったすべての人へ

――昭和ふるさと村、という名称や施設の雰囲気がレトロで特徴的ですが、特徴やこだわりを教えていただけますか?

当館は、旧木幡小学校の廃校舎を活用した宿泊施設や、もともと校庭だった敷地をリノベーションしたオートキャンプ場などを通じて、昭和をコンセプトに宿泊とアクティビティを楽しんでいただける場所です。

――来年2024年には90年目ですね!

そうなんですよ。国指定有形文化財の木造校舎は改修を重ねつつ、ほぼ元の形のまま運営しています。ちなみに廃校したのは2006年なので、約70年間小学校として使われていた施設です。

――廃校後、なぜキャンプ場に?

いまの支配人、通称「サンタさん」は、もともと那珂川町でコテージなどを自分たちでつくりながら「サンタヒルズ」というキャンプ場を1995年から運営していました。

そんななか、茂木町で廃校活用の一般公募があり、サンタヒルズは2代目に譲って、より地域に貢献できる事業を……ということで地域活性を目指して2009年にスタートしたのが、この昭和ふるさと村。

まずは、宿泊施設「こころ宿NAGOMI」をオープンして、その後木造校舎を活かした体験の場を、そして一時は校庭をグラウンドゴルフ場として活用したのちに、現状のようにオートキャンプ場として運営しています。

――キャンプ場自体は今年で5年目のようですが、地域との印象深いエピソードはありますか?

まさに今日、地元の中学生たちが職場体験として滞在していますよ!

地域との企画はよくやっていて、茂木町が子どもたちにアクティビティを提供する機会があるんですが、当館で蕎麦打ちや勾玉づくり、陶芸といった体験を通して子ども同士が交流を深めるプログラムなどで、当館を活用いただいています。

――2000年以降に生まれた子たちが、昭和の世界観を楽しめるんですね。

大人の方も満喫してくださっていて、『呪術廻戦』『ガールズ&パンツァー』といった教室のシーンがあるアニメのコスプレイヤーさんたちが、廃校の教室を活用した撮影に来訪されたり。

そういった方の中にもキャンプ好きな方がいて、撮影の流れでそのままグランピングやキャンプを楽しまれたりしていますね。

――まさに地域活性の良例ですね! ちなみに茂木(もてぎ)という町の特徴もうかがっていいですか?

水が良いので、茂木町各所にお蕎麦屋さんがあります。蕎麦が名産ということで、当館で蕎麦打ち&実食体験もやっていますよ。

あとはミツマタ群生地。昔、和紙の原料として「こうぞ・みつまた」って学びませんでした? あのミツマタ。

3月頃が旬で、白い花があたり一面に咲くスポットがありまして。ぼんぼりみたいに丸くてフワフワした花が幻想的で、観光におすすめです。

――Webサイトに、「楽し、懐かし、童心(こころ)が帰る」とありますが、これに込められた思いとは?

ある時、社内で昭和ふるさと村のキャッチコピーをつくろう、という話があったんです。1人最低2つほど書いて提出し、そのなかから選ばれたのがこのキャッチコピー。実は発案者は私です(笑)

――おおお!

この廃校舎を見ると、年代が上の方は当時を懐かしく楽しみ、一方で、若い世代にとっては馴染みのない施設でも昭和の時代に思いを馳せて、「こういう文化があったんだ」と、知らない過去を追体験したり想像して楽しめると思うんです。

そんな楽しい気持ち、懐かしむ気持ちが交差して、どんな世代も童心に帰るような場所になったらいいなという想いを込めて、「楽し、懐かし、童心(こころ)が帰る」と表現しました。

――カフェでアルミの食器でカレーや揚げパンが出てきた時は、気持ちがアガりましたし、小学校の空気感や記憶が蘇って満喫しました!

[「昭和の給食」は、懐かしのソフト麺のセットメニューもある]

キャンプ場づくりは、垣根を越えて

――昭和ふるさと村は、「ACN(オートキャンプ場ネットワーク)」にも加盟されていますね。

ACNは、一言でいうとより良いキャンプ場づくりを目指して協力している民間のグループで、全国各地から年に2回ほどオーナーが集まって交流する機会があります。それぞれのキャンプ場の売り上げやその経緯を共有したり、困っていることがあれば相談したり意見交換ができる場です。

ちょうどこの前、ACNの創始者の方が以前オーナーを務めていた西富士オートキャンプ場で勉強会があって。同業の人の声を聞く機会ってなかなかないため、とても勉強になったし楽しかったです。

――横のつながりって大事ですよね。結構腹を割って話すような感じなんですか?

そうですね。今回も、参加した全キャンプ場が直近の売上推移を共有したり、新規事業のアイデアがある人は共有したりしました。

自分のところだけじゃなく、よその状況を、しかも複数知ることで、業界の傾向や課題が見えてきたり、打つべき施策が見えてきたりと、とてもおもしろくて学びが深いです。

過去の話だと、キャンプ場のコテージを1から手づくりするとか、サウナを始めるという方に、昭和ふるさと村やサンタヒルズでの間取りや導線、料金体系などを共有したり。加盟キャンプ場同士で支え合える、良い意見交換の場です。

――ACNで得たことを現場で実践した例はありますか?

昭和ふるさと村のInstagramの運用をしているんですが、始めた当時よりは手応えはありつつ、そこまで顕著ではなくて。

フォロワーが多いキャンプ場の方と意見交換をした時に、ストーリーズを多用したり、投稿も頻度をあげたたほうがいいと聞いて、戻ってから実践しています。天気や温度のストーリーズを毎日アップしているので、これから来場される方は参考にぜひチェックしてくれると嬉しいです!

来場者に寄り添うキャンパー心

――今回実際にキャンプ泊して、施設の清潔感や洗面台にドライヤーを置く心遣いにグッときました。

ありがとうございます、トイレや炊事場、洗面台など水回りの掃除は徹底しているのでうれしいです。ドライヤーは、コインシャワーの中に置いてもよかったんですが、シャワーを使わない人も使えたほうがいいかなと思って、洗面台に設置しました。

――その心遣い……穴澤さんご自身もキャンプするんですか?

はい、ここで働くようになって始めました。もともとやってみたい気持ちはあって、入社したらスイッチが入り、趣味と仕事がいい具合に合致しまして(笑)。人生初キャンプは、昭和ふるさと村の体育館裏のサイトです。

[体育館裏のサイトからの景色]

このサイトは景色もいいので、今も昼休憩でよく椅子とテーブルを持ち出してお弁当食べたりしています。勤務中でもデイキャンプまがいを(笑)。

最近、アウトドアチェアを持ち出して屋外を楽しむ「チェアリング」なんてアウトドアの楽しみ方も出てきていますが、そんな気軽な使い方にもおすすめです。

――いいですね!! よそのキャンプ場にも行きますか?

ちょうど昨日も行ってきました! そこのスタッフさんは人当たりが良くて、寄り添ってくれる雰囲気が気持ちよかったので、自分の接客の参考にしようと思いながら帰ってきました。

普段から、自分がキャンプする時に気になるので、炊事場には常時スポンジと食器用洗剤、焚き火台用のスチールウールたわしを置いたり、キャンパー目線で使いやすいキャンプ場、気持ちのいいキャンプ場になるように意識しています。

[穴澤さんお気に入りのギア。天板がスライドし、ものを載せたまま中身がとれる機能性・デザイン性の高いカスタムコンテナ]

――実際にお客さんからはどんな声が?

「朝風呂がしたい」という声をいくつかいただいて、シャワー室を設置したり、グルキャンのお客さんなどの夜の騒音対策として「キャンパーズサロン」をつくりました。体育館の奥にある、21:00〜0:00で利用できる屋内施設です。

騒音トラブルは完全にはなくせないですが、アンケートを毎月集計していて、状況に応じてみなさんの声を反映していきたいと思っています。

――キャンパー当事者だからこその視点で実際に行動されていて、なんだかキャンパーとしてうれしいです。

ありがとうございます(笑)。キャンプブームでキャンパー人口が増えるのはとてもいいことだと思っていて、一方で初心者の方にはこちらから情報提供をしたり、寄り添うことが大事だと思っています。

以前、不審者というかボヤ以上火災未満……みたいな事件があってだいぶ肝を冷やす経験があり、それ以来チェックインでの説明や、質問への対応を丁寧にするように心がけています。

――たとえば?

グランピング利用の方は、キャンプ未経験で焚き火台の組み立て方を知らないことが多いので、ギアをお渡しするときに実際一緒に外に出て、「こうやって組み立てるんですよ」「薪の置き方はこうですよ」とちょっとだけアドバイスをしたり。初キャンプの方も、安心して遊びにきてほしいです。

――キャンプが大好きで、それを伝えようとしている「寄り添う姿勢」がよく伝わってきます。ちなみについ先日できたサウナもキャンパーとしての声から?

キャンパーというか、私はサウナーでもあるもので、サウナブームもあるし会議や休憩の時によく社内で打診していました。でも以前サンタヒルズで運営していたサウナのトラブルの経験からなかなかGOサインが出ず。

でもある時、支配人と参加したサービス産業系の展示会をきっかけに「サウナ始めよう」となり、社内でサウナチームを編成して開業に至りました。ついに、です!

――サウナーとしての嗜好は反映できましたか?

水風呂のアルミの浴槽は支配人のアイデアで、当初私と別のスタッフは反対していたんです。せっかくのウッドテイストの雰囲気に人工的なものは合わないと。

でも、全体を見たりいざ実際に入ると、これがちゃんと冷たくて最高だし、インテリアとしても案外よくて。今ではお気に入りです(笑)

キャンプ場から生まれる、新たな趣味

――支配人のサンタさんに、「サウナの次は何をつくるんですか?」と聞いたんです。そうしたら、「ブルーベリー畑の迷路をつくる」と聞いたのですが……

農家さんから畑を借りて、ブルーベリー摘みをしながら散策したり楽しめるものをつくりたい、という話ですね(笑)。それ以外にも、日帰りでプライベートで楽しめるバーベキューガーデンをつくろうとか、構想はいろいろありますよ。

――体験できることがもっと増えますね。

いま起きているアウトドアやキャンプの人気の波を、一過性のもので終わらせたくないと個人的に思っています。

だから、キャンプだけでなくさまざまな体験プログラムがあり、キャンプ場との接点を多角的につくれる昭和ふるさと村が、「キャンプに興味はあるけれど一歩踏み出せない、不安がある」という方に寄り添って、キャンプの間口を広げるキャンプ場になれたらうれしいですね。

「陶芸が趣味で益子焼を見に来た」「趣味のコスプレの撮影会で来た」という人が、昭和ふるさと村をきっかけにグランピングやキャンプが第2の趣味になった、なんてことがあったら最高です。

 

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▶︎iihi Magazine #4

昭和ふるさと村

レトロな木造校舎を改築した昭和の時代を体感できる、校庭でのオートキャンプ、グランピング施設。グランピングは冷暖房完備、貸切大浴場もあり、都会の生活では得られない「贅沢な時間」と「貴重な体験」が満載。

インタビューを受けてくださった穴澤さんの最近のお気に入りのギアは、デイキャンプから本格キャンプまでおすすめの「ONE TOUCH BUCKET(WHATNOT)」と専用スライド式天板「SAIKORO(m’sfactory)」、お気に入りのキャンプ場は、ロケーションとスタッフさんのコミュニケーションが最高という「ナラ入沢渓流釣りキャンプ場」。

http://showafurusato.com/
https://www.instagram.com/showa_furusato/

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