キャンプを楽しめば楽しむほど、森が、自然が、豊かにおもしろくなる未来を信じて。

2023.6.7

キャンプを楽しめば楽しむほど、森が、自然が、豊かにおもしろくなる未来を信じて。

こんにちは! iihi編集部の原口です。

各界で活躍するさまざまなプレイヤーに、日々の活動で探究していることやその熱源についてインタビューする読みもの企画「火種」。

第2回目で訪ねたのは、長野県伊那市で「森をつくる暮らしをつくる」を理念に活動する、株式会社やまとわ 取締役 森林ディレクターの奥田悠史さんです。

キャンプの楽しさといえば、キャンプ場までの絶景ドライブや、木漏れ日の下のキャンプ飯、仲間と見上げる満天の星空……などさまざまありますが、そのどれもに外せないのは、自然の環境。

澄んだ空気を身体いっぱいに吸い込んだり、鼻をくすぐる木や土の匂いなど、あの自然を感じるよろこびを日々の暮らしでも楽しめたらどうでしょう? 

暮らしを通じて森を豊かにする活動についてお話をうかがいながら、編集やデザインの仕事をしていた奥田さんがなぜいま森というフィールドで活動しているのか、森にどう関わっているのか、そして森とキャンプの関係への考察など、森をおもしろくする火種の数々を探ります。

文=原口さとみ
写真=上野友暉

短所は個性。見立てとデザインが生む新たな価値

「森をつくる暮らしをつくる」。

これは、「森」と「私たちの暮らし」がそれぞれ独立してなかなか交差しない、距離のある現状をどうするか? という観点から生まれたやまとわのコンセプトです。

具体的には、夏は農業、冬は林業の仕事をする《農林業》、地域の木をつかった《ものづくり》、地域にあう《家・暮らしづくり》、そして森と暮らしをつなぐ《企画づくり》に取り組むという、伊那の森の入り口から出口までを捉えた「森と暮らしの新しい関係性」をつくる事業を行っています。

そんなやまとわの事務所と工場を併設した36officeを訪れると、早速森の中へ。

当たり前のように歩いているこの道は、いま練習としてつくっているという、林業においてとても大事な作業道。

作業道は、木を伐るための重機を通したり木を運んだりする森林業の土台であり、「1回通れたらおしまい」ではなく、20年後も使えるようにしっかり均し、落ち葉を重ね、時間をかけてつくるそう。木の命は長いから、見据えるスパンも長い!

そんな作業道で横たわり土砂崩れから道を守っているのが、伊那の里山に多く生育しているコナラやアカマツの丸太です。

アカマツはかつては人とうまく共存していたものの、畑をする人が減り、台所やお風呂で薪が使われなくなり、最適とはいえない生育環境から不健康に。免疫が落ち、“マツ枯れ病”の被害は広がる一方だといいます。

マツ枯れ病とは、センチュウが樹体に入り木を枯らしてしまう木の病気。被害を防ぐ薬品はあるものの、使えば木の繊維が傷み材として使えなくなるそうで、いまのマツは病気か傷むかの二択とはなんて悲しい運命なのでしょうか……。

また、ねじれて育ち50〜80cmごとに節ができるうえ、軽くて柔らかいという特徴をもつアカマツは、その製材効率の悪さから売れにくいという面も。

そこでマツの個性を逆手にとり、新しい価値をつけて開発したのが、日本の伝統的な包装材「信州経木shiki」。食材を包んだり保存できる経木(きょうぎ)には、適度な間隔に節があり、抗菌・調湿作用のあるアカマツがぴったりなのです。

[節と節の間をとり裁断するのも、職人さんの手仕事。]

[乾燥中の経木。ほんのり良い香りがして、プラスチックのラップを使い捨てなくていい気持ちよさもあり、筆者は取材後からすっかり経木にはまりました。]

[オフィスの素敵な壁面は、なんと経木製造で出た端材をタイルのように貼っているそう。]

ほかにも、軽くてアウトドアでも使えるポータブルファニチャー「pioneer plants」、天板と丸脚を自由に組み合わせられる「DONGURI FURNITURE」といった数々の木を生かしたプロダクトが、ものづくりチームによって生み出されています。

情熱と企みが、人やアイデアを惹きよせる

地域材を生かしたものづくりに加え、コンテンツの制作や学びの場づくりなど企画やプログラム設計も手がけ、人を育てたり呼び込んだりと、森の課題に源流から取り組む活動もされています。

たとえば、業界を超えて森の価値を再発見、再編集して、豊かな森林をつくることを目指す学び舎「伊那谷フォレストカレッジ」、産学官連携インキュベーション施設「inadani sees」。

今回この取材をコーディネートしてくださった森事業部 ディレクターの市川雄也さんも、もともとWeb制作会社に勤務していたなか、フォレストカレッジに参加した経験から移住と就職を決意されたそうで、森の価値、森のおもしろさに惹かれる人がじわじわと広がってきています。

[市川さん(右)は、広告で知ったフォレストカレッジに参加後やまとわの考えや企画に共感し、直談判してやまとわのインターンとなったそう。]

そんなやまとわの始点は、木工職人で現やまとわ代表の中村博さんが、当時三重県と長野でデザイン事務所を営んでいた奥田悠史さんに声を掛けたことに端を発します。

三重県伊賀市で生まれ、自然のなかで本気で遊びながら育った奥田さんは、信州大学農学部森林科学科で学生時代を過ごし、日本の森林が抱える一筋縄ではいかない課題を目の当たりに。

今の日本の森林は、戦後に植林されてできた人工林のため、「自然破壊をしないために木を伐採してはいけない」どころか、きちんと人が手を入れて整備しないと土砂崩れが起きやすかったりクマが里山に降りてきてしまうといった問題を抱えています。

しかし、安価な輸入材が出回り、今日本で使われている木材のほとんどは輸入材。手入れを必要とする日本の人工林の多くが放置されているのです。

[きちんと整備され、陽が差し込む明るい森は健康な森。]

こうしたさまざまな問題が絡み合った実情に自分一人では太刀打ちできないと思っていた奥田さんと、家具づくりを通して日本の森の課題に立ち向かっていた中村さんとの出会いから、やまとわは生まれました。

設立当初のやまとわは、中村さんを含む職人4人と奥田さんの5人体制。編集やライティングをしていた奥田さんは、当初その企画力で企画をつくっても、人手不足でなかなか思うように事業を進められない状況だったそう。

そこで、自分たちの目指す状態を可視化しようと“絵”を描いたとき、今のやまとわの事業部像が浮かびあがったとのこと。木を伐る人、木工職人、木のある暮らしをする人――そんな木が循環する状態の関係性が見えてきて、そこからやまとわ初のブランド、地域材を生かした「pioneer plants」が誕生しました。

これを皮切りに採用も進み、組織も事業も広がりはじめたと奥田さんは話します。

[2018年に描いた、目指す状態を可視化した絵。このイメージがまさに今のやまとわの事業部になっている。]

私たちは、キャンプの何に魅了されている?

「森と暮らし」が繋がるおもしろさが見えてきたところで、では「森とキャンプ」の関わりはどうでしょう。

グルキャン、ソロキャン、グランピング……どんなキャンプスタイルにも共通するのは、自然のなかで過ごすということ。しかし「森とキャンプ」の接点は、意外にまだまだ踏み込む余地があるかもしれません。

そもそも日本のキャンプは、20世紀初頭にボーイスカウトやガールスカウトなど民間団体による教育としてスタート。野外教育の側面をもちながらも経済成長期に娯楽としてキャンプブームが起こりました。

そのため、バーベキューやカヌーといったアクティビティが中心に設計されていることが多く、「自然そのもの」で遊んでいる人は案外少ないのでは? という奥田さんの提言から、iihi編集部と「森とキャンプ」についての議論がスタート。

「そもそも自分たちはキャンプの何に魅了されているのだろう?」という問いが浮かび上がりました。

[座っている椅子は、pioneer plantsの「クマのオーウェンさんのイス」。柔らかいアカマツが耐えられるよう、金属ではなくロープで荷重を支える構造です。]

奥田さんは、以前経験した穂高連峰の登山の足が震える感覚も含めて「生きている実感がしてものすごくよかった」と語り、キャンプや自然の魅力もそうした“生きた心地”にあるのではという話に。

たとえば、夏キャンプの風物詩といえる川遊びも、回数を重ねるうちに魚の種類がわかったり、魚の大きさでその川の状態がわかったり。焚き付け用の小枝を探しに森へ入った時、木の苔のつき方や樹種でその森の個性がわかったり。

キャンプを通してそうした等身大の学びや経験を重ね、自然の知らない表情を見るたびに、私たちはその魅力に惹かれていくのかもしれません。

[オフィス周辺の地面を埋め尽くすふかふかのおがくずは、経木製造で出たもの。キャンプ場で自分で薪割りや木工をして、そのおがくずを焚き付けにして焚き火を楽しむ、「木のフルコース」なキャンプをしてもおもしろそうです。]

お話の最後に紹介してくださった、この春やまとわでスタートした、身体と感性を生かして森と本気で遊ぶプログラム「Shindo.」のキャッチコピーは、

「私たちは、経験するために生きている」。

キャンパーがキャンプにのめりこむ由縁はこれか、と、今回の訪問を経て腑に落ちた言葉でした。

🏕 🏕 🏕

▶︎iihi Magazine #2

奥田 悠史

1988年三重県生まれ。信州大学農学部森林科学科で年輪を研究。大学時代、バックパッカーでの世界一周旅行に出かける。旅を通じて世界中の悪意と優しさに触れた。フィンランドでカメラを盗まれ、スペインではニセ警官にカードを盗まれる。悔しすぎてバルセロナの宿でまくらを濡らした。そのときに聞いた「谷川俊太郎」の詩「生きる」が心に刺さりすぎて、旅を続けた。

世界中で、いろんな人が“生きる”姿に触れるたびに、その姿を伝えることに興味を持つ。大学卒業後、編集者・ライター、デザイナー、カメラマンを経てやまとわ立ち上げに参画。やまとわでは、ディレクションやクリエイティブを担当。

最近のお気に入りのギアは「JungleNest Hammock」、お気に入りのキャンプ場は「四徳温泉キャンプ場」。

https://yamatowa.co.jp/
https://html.co.jp/YujiOqda

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